065:どんな形でも、『生きろ!』。

甲状腺がん治療&中咽頭がん経過観察 編 065:どんな形でも、『生きろ!』

 

2017年7月27日(木) 治療終了から38日目 退院から17日目

 

 

トキは九州がんセンター外来にて、血液検査とCT検査を受けました。検査の結果が出るまで、トキは院内の食堂で、うどんをゆっくり食べながら過ごしました。

 

味覚は割と戻ってきており、現在50%くらいといったところでしょうか。相変わらず開口と嚥下には障害があり、これには、トキも慣れる覚悟でいました。 


 

昼からのカンファレンスの場にて、トキの中咽頭がんの根治を目指して行った、放射線治療と抗がん剤治療の結果についてと、九州大学病院で予定している甲状腺がんのヨード治療について、頭頸科の医師やスタッフたちが集合して話し合っていました。トキは、そこに『資料』として呼ばれているため、特に質問することも答えることもありません。

 

手術の執刀を行った、頭頸科の部長がトキの手術痕を確認したり、CT検査の画像を舐めまわすように見ています。

その横で、「CRですよね!CRですよね!」と、しきりに言う、U先生に対して、部長は更に画像を舐めまわすように見ながら、「ふーん」と、ため息をつくように答えました。

 

最終的に部長がトキに近づき、「うん。あとは、ヨード!」と言いながら、にこりと笑い、その後ろから、U先生が「OKです!OKです!」と、トキに退室をうながすと、カンファレンスは以上となりました。

 


 

トキは、『で?』と思いました。

 

U先生いわく、中咽頭がんは『CR:Complete Response(完全奏功)治療への反応として、がんの徴候が全て消失すること』。甲状腺がんは、九州大学病院のB先生から連絡があったとのことで、「ヨード治療は9月の検査結果次第で決めましょう」とのことでした。

 

つまり、中咽頭がんは以上で、経過観察に入り、残りは甲状腺がんの放射性ヨウ素治療です。

 

やりました!まだまだ、副作用はありますが、がん自体は無くなりました!が・・・もともと痛くも、かゆくもなかったので、『体内にがんがあった』ということも、『そのがんが無くなった』いう感覚も、トキには全くありませんでした。さらに、治療自体は痛くも痒くもないのに、日々、副作用で状態は悪くなっていったことから、『治った』という感覚も全くないのです。むしろ、治療を受けたために、酷い副作用を背負ってしまい、もう、一生、色んなことが出来なくなってしまった。

 

「退院おめでとう!」「がんが治って良かったね!」と言われても、

 

『こんな状態で、一体、何が良かったというのか・・・』

 

仕事は慎重に何とかですが、もう一生、大声で歌うことも山笠を舁くこともできません。

 

「どんな形でもバンドや山笠にも関わっていける」と、トモは言ってくれました。トキも出来れば、そう思いたいと願っていました。考え方を変えれば、命は助かりました。そして、この状況に比べたら、これから生きていく上で起こるであろう殆どのことは大したことじゃないと思えるのではないでしょうか。

 

何よりもトキは、自分の知らぬ間に、この4か月間、支えてくれた家族、友人、会社、仕事、山笠、バンド、その他の関係者全てに感謝をしなければなりません。

 

夜になって、それを伝える機会がひとつありました。山笠の会合です。トキは、その場で無事と礼を伝えました。

 


 

先日、参加した、山笠の別の会合に続き、この場でも大切なものをトキは受け取りました。『御守』です。その裏に書かれた文字『病気平癒』『我々一丸』『一心同体』『来年は一緒に』・・・それぞれが、これを身に着け、トキの思いも一緒に背負いながら山笠を舁き、走ってくれたのです。

 

 

さらに『左巻き』です。これは山笠の台を囲む杉壁上部の横笛(紅白の棒)に巻きつけ装飾する2色(浅葱・白)の帯状の布です。

 

流に1枚しかない物で、毎年、貢献、功労した者に授けられる、大変、栄誉ある物です。この『左巻き』を病気で参加をしていない、何の貢献も出来なかったトキに、流の皆さんが授けてくださったのです。


 

何という強く優しい想いでしょう、こんなに有難く救われることはありません。トキは、この仲間たちと共にいて本当に良かったと心から思いました。来年は必ず法被に袖を通して、この大切な仲間たちと共に。支えてくれる人たちのために、家族のために、そして、自分のために。

 

トキの胸には、どんな形でも、『生きろ!』という言葉が苦しくも心地良く響いていました。