048:今日のことを忘れないで。

中咽頭がん 治療編3 048:今日のことを忘れないで。

 

2017年5月29日(月)(抗がん剤治療2/2回目・放射線治療24/39回目)

 

午前6時30分

 

「お早うございます。今日の担当です、宜しくお願いします。今日は誕生日ですね、おめでとうございます。抗がん剤が届いていますよ。」・・・と、看護師が満面の笑みを見せました。

 

流れで話されたせいか、まるで、それが誕生日プレゼントのように聞こえ、トキは苦笑いをしてみせました。

 

そう、今日はトキの45歳の誕生日なのです。

 

各点滴のスケジュールは1回目の時と同じです。前日から腎障害予防として行っていた12時間の点滴を終え、吐き気止めの点滴、さらに吐き気止めの薬を飲んでから、

 

いよいよ、シスプラチン(抗がん剤)です。シスプラチンの点滴は、わずか2時間ほど、あっという間です。

 

 

抗がん剤と言っても単なる点滴ですから、その瞬間は放射線と同じく、痛くも痒くもありません。1回目の時は訳が分からなかったトキですが、流石に2回目は慣れたものです。看護師に写真を撮ってもらう余裕さえ見せました。 


 

午後12時 

 

昼食の配膳のおばさんに「お誕生日おめでとうございます」と言われ、メッセージカードと紅茶パック1袋と雨玉を3つをもらいましたが、今のトキには香りのいい茶色い水と舐めたら溶ける石ころでしかありません。

 

午後14時

 

吐き気やダルさもなく、今のところ体調に変化はありません。 

 


 

今日の放射線治療は午後からです。トキは引き続き、栄養補助の点滴を打ちながら、エレベーターに乗って放射線の治療を受けに行きました。車輪付きの点滴装置を『ゴロゴロ』と音を立てながら引いて歩きます。紛れもなく病人です。放射線治療も土日は病院の都合で休むのに、患者は抗がん剤を打った日すら休ませてもらえません。しかも今日は誕生日です。トキは思いました。

 

『月に1回、計2回の抗がん剤を打つ日が、よりによって年に1度の誕生日にストライクとは・・・』

 

これから3日間は利尿剤と栄養補助の点滴。さらに大量に水を飲んで、おしっこを出すのが『治療』です。2時間に1度はトイレに行きたくなります。これが72時間も続きます。おしっこに行く度に500mlの紙コップで計量し専用の用紙に記入します。1回に2カップ使うこともザラです。記入した用紙を朝昼晩と看護師がチェックするのですが、沢山、出しているほど褒められます。

 

午後15時

 

微熱が出ててきた、トキは、それなりの吐き気とダルさを感じていました。今日は、フェイスブックを通して、誕生祝いのメッセージが沢山、届きますが、殆どの人は、トキの状況を知りません。トキは、ただただ「ありがとうございます。」 と、それ以外、返せる言葉はありませんでした。

 

トキは、冗談交じりの短編をトモに送りました。

 

・・「今晩は泣いてもいいんじゃないか?」と誰かが言い出しました。そこで、久し振りに『僕等の会議』を開くことになりました。冒頭、僕ナンバー003が、こう発言しました。「そもそも、誰かにウケようと、こんな文章を書いている時点で、大したことじゃないと思っている証じゃないか?」この意見に満場一致で、あっという間に閉会となりました。その結果、僕は泣かないことになりました。そう、大したことではないからです。』

 

午後16時

 

トモが返事をくれました。

 

『お誕生日おめでとう!泣いてもいいんです…人は元気になると、つらかったこと、苦しかったことを忘れがちでまた無茶な生活サイクルにもどってしまうことがあります。45歳の誕生日に抗がん剤をうつある意味一生涯の中で特別な日。一生忘れない日。今日のことを忘れないで、これからの人生、100才まで規則正しい生活をしていきましょう!やっぱり副作用はきつい?』

 

けして良くはない感覚の波に襲われ、体も心も、どんよりとしていましが、トキはトモに一言だけ返事を返しました。

 

『有り難うね。』

 

午後20時

 

トキは食欲を無くし、晩御飯も殆ど食べられませんでした。

 


 

そして遂に、しゃっくりが出だしました。また、一晩中、尿意と共に地味な闘いが始まります。