026:一生、歯を抜いてはけない。

中咽頭がん 発覚編 026:一生、歯を抜いてはけない。

 

2017年4月20日(木)

 

九州がんセンター外来、この日はトキ一人でした。U先生は放射線治療の説明をサバサバとしました。

 

「目的は根治です。放射線治療の効果を上げるために抗がん剤治療も行います」。

 

『抗がん剤か、髪の毛が抜けたりするのかな?』 トキはぼんやりと思いました。

 

書類には、放射線治療は週5回、合計39回(総線量70.2グレイ)を予定と記載されています。根治と予防を目的に最大量、これ以上、当てると脳や骨が溶けるという限界量を当てるのだそうです。

 

また、本来、全てIMRTの方が良いのですが、トキ専用の治療準備をするには少し時間がかかるため、

 

最初の10回は通常の3D-CRTで行い、残りの29回はIMRTで行うとのことでした。

 

状況からして、一刻も早く始めた方が良いことなどからの判断ということでした。因みに3D-CRTとは今までの通常の放射線治療で、がん以外の多くの正常な部分にも当たってしまします。しかし、IMRT(強度変調放射線治療)の場合、放射線に強弱をつけ、正常な部分に当たる量を最小限に抑えることが出来ます。

 

つまり、その後の副作用に大きく影響してくるのです。

 

この時点で、トキは、メリットもデメリットも全てをイメージ的にしか理解できませんでした。

 

副作用の一部は、その後の口腔外科での診察で知りました。口腔外科の先生の話によると、放射線が口腔内に当たることによる

 

最も重症な副作用は、顎の骨が腐ることでした。

 

放射線が当たった顎の骨は、ちょっとしたことがきっかけで感染を起こし、壊死を起こすことがあるらしいのです。壊死ということは、一生、治らないということです。最も多いきっかけは抜歯です。 

 


 

その傷口から菌が入り、感染症が起こってしまうため、

 

将来的に抜く可能性のある歯は、治療前に全て抜くというのです。

 

治療中は勿論、治療後も様々な副作用により口腔内の健康は損なわれるそうです。つまり、虫歯になりやすくなります。

 

その上、歯を抜いてはいけなくなるのです、一生です。


 

口腔外科での検査の結果、トキには2本の虫歯がありました。しかし、放射線治療後に治療出来る程度で、抜く必要はないとのことでした。トキは、いっそ抜いてもらった方が良いのではないかと不安を覚えましたが、一刻も早く、放射線治療を始めなければならないという状態でもありました。

 

さらに放射線を当てる位置を決めるためのCT検査が行われました。正確な場所を見るために放射線治療科の先生たちを中心に時間をかけて行われました。

 

また、放射線治療を行う時に着けるマスクを作成しました。放射線を喉元に当てる時に頸や頭が動かないように固定するためものです。

熱した網戸のような白いシートが勢いよく顔に押し付けられました。マスクと言っても、目、鼻、口のところが開いているわけではありません。目を開けても細かい網の目がぼんやりと見えるだけです。口も開かないため、鼻からしか息が出来ません。ほんの数分でしたが、トキには長く長く感じられ、窒息しそうな恐怖との戦いでした。

 

折角の代物でしたが、トキには写真を撮るような余裕は全くありませんでした。

 

その後、頭頸科の医師と看護師らによるカンファレンスという、状態と治療計画の確認が行われました。

 

甲状腺がんの手術で入院していた時に、お世話になっていた看護師の方々もいます。

 

再発や転移で再入院も嫌ですが、中咽頭という全く違うがんの併発により、直ぐに戻って来たことに対するリアクションは難しいものだったことでしょう。

 

さらに、甲状腺がんと中咽頭がんを併発した状態について、その場で、トキは部長から、こう言われました。

 

「非常に珍しい、初めてじゃないかな?」

 

なに史上、初めてかは、わかりませんでしたが、それなりに特殊なケースなのだろうと、トキは思いました。そして、予定通り明日から入院することが決定したのです。