003:告知の料金は僅か210円。

甲状腺がん 発覚編 003:告知の料金は僅か210円。

 

 2017年3月1日(水) 総合病院その2

 

朝一番、トキは一人で病院に行きました。若手医師が先日と変わらぬ口調で、まるで世間話のように話しを始めました。「細胞診の結果、甲状腺の部分とリンパ節の部分、いずれも

  

クラスでした」。

 

それは裁判官の主文という感じでした。なんの前置きもない話の冒頭で、がんであると確定されたようでした。更に若手医師は話を続けました。「まあ、手術して全部見てみないとわかりませんが

  

おそらく、甲状腺乳頭癌と思われます。

 

リンパ節の部分には甲状腺がんの組織がありましたので、先日、お話しした通り、甲状腺がんが転移していると思います」。

 

 

ドラマや映画で観たことあるなと、トキは客観的に『告知』の瞬間を俯瞰で見ていました。また、トキが全てを話してくれと言っていたこともあり、家族を呼ぶこともなく『がん告知』という一大イベントは、

 

あっという間に過ぎ去っていったのです。

とりあえず 今のところ『余命宣告』ではない 


 

こともあり、穏やかな雰囲気ではありました。そして、トキが原因について尋ねると、「遺伝の場合もあるんですけど、家族や親戚に甲状腺がんの方はいないんですよね?まあ、放射線の被爆とか、ヨード、つまり海藻類の摂り過ぎとか言われますが、そもそも、どれも確実な原因とは言えないんですよね」。トキの場合は、状況からして

  

突発的であり、原因も不明ということでした。

 

しかも、通常、甲状腺がんの発症は圧倒的に女性が多く、45歳以下の男性というのは珍しいケースだそうです。若手医師は話を続けました。「ここでも対応出来ますが、私が以前いた病院をご紹介します。そこの部長は私の恩師で、業界でも最先端を走り続けている方なので、より確実な治療が得られると思います」と九州がんセンターを薦められました。因みに

 

『告知』をされたこの日の支払いは、僅か210円でした。

 

トキは、しょんぼりしながら、そのまま自転車で会社へ行きました。途中、ウルフルズの『笑えれば』のサビの部分を頭の中で何度も何度も響かせました。トキは会社になんて話そうかと悩みながら、まずはトモに電話をしました。「やっぱり、がんだった、先生の言った通りだった」。すると、トモは

 

「そうでも治療できるし、大丈夫って言われとっちゃろ?」

 

と、いつもと変わらぬ口調で答えました。夜になり、トキは帰宅し、ウタが寝てから再度、話しましたが、トモは「大丈夫って言われとっちゃろ?大丈夫よ!」の一点張りでした。トキには良くも悪くも、まだ、実感がありませんでしたが、トモは実際、どんな心境だったのでしょうか?