002:白黒はっきりさせたい?

 甲状腺がん 発覚編 002:白黒はっきりさせたい?

  

2017年2月27日(月) 午後 総合病院その2

  

総合病院その2にて、耳鼻咽喉科の担当医二人が寄って集って、今までの検査結果を眺めた後、若い方の医師が、割と軽い口調でこう言いました。「今は44歳ですよね、とりあえず、焦らなくてもいいと思います。

  

でも今日、白黒はっきりさせたいですか?」

 

その言葉には、いくつかのキーワードが含まれていましたが、トキは、とりあえず「はい」と答えました。直ぐに検査室に移動、細胞診検査ですが、正確な位置を得るために、エコーの画面で場所を確認しながら行われました。左耳の下のしこりと、喉ぼとけの右下辺りを注射針で数回、刺されました。痛過ぎて気が遠のく中で聞こえたのは、エコー画面を見ながら独り言のように言った若手医師の一言、

 

「ああ、もう典型的な

 

トキは流石に「典型的とは?」と訊ねました。すると、「悪性のですね」と軽く返されました。そこでは、あえて「がんですか?」とは聞きませんでした。仕事だから当然でしょうが、医師達は物凄く冷静です。トキも、その冷静さに巻き込まれていました。

 

検査後、トキは診察室で若手医師にこう願い出ました。「現状から考えられることと、それに対して今後、どのようなことが必要になるか、可能性で構いませんので、全て話してください」。医師は「仕事、心配ですよね」と即答しました。そして、図解しながら様々な可能性に触れつつ、最終的に、エコー画面の画像を見せながら、本命らしき見解を述べました。まず鎖骨の上あたりにある黒い影を指差し「おそらく甲状腺の右部分にあるコレは悪性、

  

つまり甲状腺がんです。それが左耳下のリンパ節に転移して

  

腫れていると思います、でも治療は出来ますし、甲状腺がんは進行が遅いので焦らなくてもいいと思います」。甲状腺とリンパ節初めて具体的な部位が出てきました。トキは思いました、待てよ

 

甲状腺ってどこ?リンパ節ってなに?

 

という部分に囚われていましたが、徐々に、がんという言葉に意識が移りました。しかし、ここまでに散々、がんかもしれないと言わんばかりに言われて来ていたこともあり、やっぱりそうかと

 

自分でも驚くほど冷静に話を聞くことが出来たのです。

  

若手医師は、こう続けました。「甲状腺がんは若い人の方が進行が遅くて、45歳で線を引くんですが、まだ44歳なので予後は比較的良いですよ。ただし、甲状腺の場合は予後も3年とか5年とかじゃなくて、10年、20年と長い期間、経過を見る必要がありますけどね」。それで、焦らなくていいと余裕な感じなのかはわかりませんが、とりあえず、余命なんぼとかではないようです。さらに若手医師は話を続けました。「うーん、でも、

  

甲状腺と左のリンパ節は全摘でしょうね、

 

手術して2週間くらいの入院、その後、ヨード治療で2週間くらいの入院、ヨード治療は年1回で、2回から3回ヨード治療は甲状腺特有の治療法で、福岡では九大とかかな?でも予約がとれなくて2、3か月待ちとかになりますからね」。淡々と3年くらい先の話までしてくれました。しかし、トキには、まだ、わからないことだらけでした。トキは医師に聞きました。

 

「甲状腺をとると、どうなりますか?」

 

 

 「甲状腺の働きを補う薬を一生飲まなければなりません、あと高い声が出なくなります」。トキは心配よりも、まだ疑問の方が圧倒的に多い状態でしたが、この時点で、「バンドでボーカルをやっているんですが」

 

とは言えるはずもなく、今すぐ死にはしないが

もう色んなことが出来なくなるのかなと、ぼんやり思いました。


 

あくまで医師の推測であり、細胞診検査の結果待ちですが、医師の推測には説得力がありました。昨日までの結果は全てトモに報告してきましたが、トキはこの日の夜、「甲状腺がんの可能性が高い」と初めて、しょんぼりな報告をしました。すると、トモは・・・

 

「まだ、わからんやん、とにかく結果を待とう」

 

と気丈に答えました。トキは夜通し、甲状腺がんについてインターネットで調べまくりました。リンパ節に転移している時点で、少なくとも、ステージ。そして、甲状腺がんには、いくつかの種類があり、ほとんどを占めるのが乳頭がん。その他に濾胞がん、髄様がん、未分化がんがあります。確率は1%ぐらいですが・・・

  

もし、未分化がんだったら90%以上の確率で余命1年です。

 

医師の余裕は確率からくる乳頭がんとの見越しなのでしょうか?しかし、乳頭がんと未分化がんは同時に混在することもあるらしく、

  

実際は、がん細胞を手術で切り取って開いてみないと確定は出来ないということです。いわゆる病理という検査です。

  

トキは一抹の不安もありましたが、痛みや声のかすれなど自覚症状が全くないことも手伝い、いくら何でも未分化がんってことはないだろうという、確証のない自信で落ち着きを保っていました。ふと、ウタと寝ているはずのトモの様子を伺うと、同じく調べているのか、夜遅くまでスマホをいじっていました。

 

翌日、早々に総合病院その2の若手医師から電話がありました。「もう検査の結果が出ましたが、近いうちに来れますか?」そこで、トキが「今、電話で聞くことは出来ますか?」と問うと「電話では無理です、直接、お伝えすることになっていますから」。つまり、そういうことなのでしょう。トキは明日、行くことにしましたが、この状況で眠れないのは、

 

トキの精神状態が正常な証拠でしょう。