061:これが、トキにとっての『普通』になる。

中咽頭がん 治療編3 061:これが、トキにとっての『普通』になる。

  

2017年7月10日(月) 治療終了から21日目 九州がんセンター 退院 

 

いよいよ、トキは退院します。頸の痕もかなり薄くなりました。

   

ただし、放射線治療の効果が、わかるのは治療後1か月後です。その結果によっては、後が大きく変わってきます。今回の退院は、がんが治ったからではなく、治療を終え、副作用が多少、落ち着いたからです。当分は自宅で安静となります。 

 


トキの副作用の現状は・・・


甲状腺全摘・頸部両リンパ節郭清(甲状腺がん)※プラス、ヨード治療を数か月後に予定。

◆左手が肩より上に上がらない

◆頸周りの締め付け、こわばり

◆頸周りの皮膚の感覚がない

◆食事の飲み込みが困難

※時間経過とリハビリ次第で治る見込みもあり


◆手足の先がしびれる

◆体温調節がうまくいかない

※生涯、薬で調整



抗がん剤治療(中咽頭がん)

◆味覚障害(20%程回復)

※数年で回復する見込み


◆しゃっくり ◆吐き気、倦怠感

◆便秘 ◆微熱 ◆食欲不振

※済



放射線治療(中咽頭がん)

◆脱毛 ◆口内炎

※数か月で回復する見込み


◆唾液腺障害(口腔内乾燥)

※生涯、現状維持


◆口腔内の免疫低下

※生涯、ケアが必要



この状態で世に出て、以前と同じく『普通』に生きていくのは困難ですが、これからは、これが、トキにとっての『普通』になるのです。

 

さて、後輩のムタさんともお別れです。そう、トキと同じ病室の83才のおじいさんです。

 

同じ治療をトキは、ムタさんより3週間ほど早く始めていましたことから、ムタさんは自分の息子より若いトキのことを『先輩』と呼びました。ムタさんの唯一の楽しみは、ラジオでした。それは視力も聴力もかなり衰えているため、テレビも新聞も、ままならないからです。トキも何度か病院の書類を大きな声で読んであげました。毎朝、病院の庭を一緒に散歩して、ベンチに座り、色んなことを話しました。

 

ムタさんは7年前に奥さんをこの病院で看取って以来、一軒家で一人暮らしをしながら、毎日、今日1日、何をするかを考えるのが日課だそうです。そんなムタさんから、トキは、こう言われました。

 

「なあ、先輩、今日が最後やね。あんたが友達になってくれて良かった。ありがとうね、でも、もう、ここでは二度と会わんようにしようね。ここを出た後、僕は家に帰ればいい。だけど、あんたは、まだ若いけん社会に戻らないかん。だけん、頑張って生きないかん、生きないかんよ。」

 

トキは必死で涙を堪えました。ムタさんも必死で涙を堪えました。お互いに明日から、どんな日々を過ごすのか気になります。それを知る術はありませんが、ここでムタさんと出会い、過ごした時をトキは一生、忘れることはないでしょう。トキは心の中でムタさんに話しました。

 

『ムタさん、歳には勝てません、でも、病気には勝ちましょう。「生きないかん」あなたがくれた、その言葉を胸に少なくとも僕は、あなたと同じ83歳まで生きてみせます。』