057:話の価値が『有名人』とは違う。

中咽頭がん 治療編3 057:話の価値が『有名人』とは違う。

 

2017年6月23日(金)治療終了から4日目

 

午後、トモが来ました。事前に予約をしていた『家での食事についての栄養指導』をトキと一緒に受けるためです。

九州がんセンターの1階にある相談室に行くと、柳沢慎吾似の、あの管理栄養士が待っていました。柳沢慎吾ではなく、管理栄養士は「基本的に、食べてはいけないという物はありませんが・・・」と、前置きをした上で、パンフレットを使いながら丁寧に話をしてくれました。

  

基本的に、『がんになりにくくするための食事』は

 

■塩分を控えること

■野菜と果物を十分にとること

■食べ物や飲み物を熱いままとらないこと

■赤肉(牛肉や豚肉)や

加工肉(ハム・ソーセージなど)をとりすぎないこと

■大豆・イソフラボン、魚、緑茶、コーヒー、カルシウムなどをとること

■サプリメントに頼らず、日々、バランスの良い食事を心がけること

■好き嫌いなく、ゆっくりよく噛んで食べること

 


さらに、『がんを防ぐための新12か条』は

 

1条 たばこは吸わない

2条 他人のたばこの煙をできるだけ避ける

3条 お酒はほどほどに

4条 バランスのとれた食生活を

5条 塩辛い食品は控えめに

6条 野菜や果物は豊富に

7条 適度に運動

8条 適切な体重維持

9条 ウイルスや細菌の感染予防と治療

10条 定期的ながん検診を

11条 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を

12条 正しいがん情報でがんを知ることから

 

 

とのことでした。トキは思いました。『がんに限らずだな』。トモも、そう思ったことでしょう。

 


 

さて、問題は口内炎です。慣れたのでしょうか?じっとしていれば、気にならないほどの痛みですが、要は『食事がしみる』のです!さらに、お粥でも噛んで、噛んで、さらにペースト状にしてから、ぬるい水で、ゆっくりと流し込む必要があるため、1食に2時間ほどかかります。食器の回収に間に合わないため、毎度、ナースセンターに自分で食器を返却に行く日々です。

 

今のトキは1日の4分の1を飯を食って過ごしているのです。これが改善されない限り、家や仕事場で食事をとることは非常に困難なのです。


 

病室に戻ってからトモがトキに申し訳なさそうに言いました。

「ごめんけど、諸々、落ち着くまでは、病院にいる方がいいよね・・・」

「うん、その方が僕も楽だ」

 

そして、トキは話の流れで、トモに言いました。

「小林麻央さん、昨日の夜に亡くなったらしいね・・・」

「えっ、うそ?知らんかった!残念やね・・・」

トモは、それ以上、何も話しませんでした。トキは心の中で、つぶやきました。

『トモ、気を使ってくれて、ありがとう・・・』

 

今日は、このニュースで朝から、テレビのワイドショーやネットの記事は持ちきりです。しかし、病院内には、何となくですが『触れてはいけない』という空気が流れているのを、トキは感じていました。やはり、『がん』という同じくくりで、その闘病者が亡くなったというニュースは、ここにいる患者を、どんよりとさせるのでしょう。お若い方(享年34歳)が幼い子を残してとなると、なおさらです。小林麻央さんは、ブログを通して闘病の様子も広く世間に知られていたので、その懸命な言動を励みにされていた患者の方も多かったことでしょう。

 

やはり、『がん』=『死ぬ』というイメージは圧倒的に強い。

 

以前から、トキは、そう思っていました。自身が『がん』になり、周りの反応からも、そう感じています。これは、トキの個人的な意見ですが、有名人が『がん』と公表した時に気になるのは、部位、ステージ、余命、

 

要するに命は助かるのか?です。

 

詳しく話さなければ、テレビのワイドショーで有識者たちが推測合戦をしたり、ネット上では流説が横行しまくります。逆に詳しく話しても、『本当は?』と疑われたり、復帰して元気にしていても、『体調は?』『再発は?』というイメージが、いつまでも付きまといます。例え、早期でも『がん』は『がん』なのです。

 

こんなにイメージの悪い病気が他にあるでしょうか?

 

いっそ、早期で治療期間も短くて済むなら、隠し通した方が良いかもしれないし、隠しようがなければ、後に闘病記を本にしたり、講演会を開いたり、精神的にも物理的にも闘病の経験を活かして『糧』にする形も人によって様々でしょう。しかし、それは、あくまで、『有名人』の場合の話です。

 

トキは『ただの一般人』、しがない『ただの会社員』なのです。働けなければ、はい、それまでなのです。

同じ『がん』になり、同じ治療と副作用に耐えても、その話の世間的な価値が『有名人』とは違うのです。

 

ハッキリ言って、『だから何だ?』という話です。

トキは治まらぬ副作用と元の生活に戻れるのかという不安の中、とても残念な精神状態に陥ってしました。

『僕は、何も無かったかのように、何ともないかのように、今まで通り普通に生きていけばいい』と、

トキも思えるなら思いたいと思っていました。しかし・・・

 

問題は、頸の大きな手術痕が服で隠せないこと。

 

問題は、口が乾燥するため、水が手放せないこと。

 

問題は、ご飯を食べることに諸々の障害があること。

 

そう、トキの場合、基本的に一生です。つまり、『がん』を隠し通すことが非常に困難なのです。

 

これは『だから何だ?』では済まない話なのです。