045:約90日後の自分との遭遇。

中咽頭がん 治療編2 045:約90日後の自分との遭遇。

  

2017年5月18日(木)(抗がん剤治療1/2回目・放射線治療17/39回目)

 

2日前から続いていたトキの微熱が治まりました。抗がん剤や放射線治療の副作用です、大したことではありません。

 

ここ最近、トキの日々のルーティーンが増えました。毎朝8時、それは朝食と共に始まります。

 

そう、NHKの『朝ドラ』を見ることです。

 

トモとウタは以前から毎シリーズを欠かさず見ていたのですが、トキは日によって見たり見なかったりでした。ところが、この状況ならば、トキは毎日、欠かさず見ることができます。今回のタイトルは『ひよっこ』です。田舎から東京に出てきた娘たちが奮闘する青春ドラマで、桑田佳祐の主題歌が爽やかさを盛り上げます。

 

トキは娘たちの奮闘ぶりに、毎回、泣きます。少し先のウタの姿と重なるのです。

 

また、LINEのメッセージで、『今日も見た・・・あのセリフ良かったね』 など、トモのスマホを通じて、ウタともやりとりが出来るので、コミュニケーションのネタとしても一役を担ってくれます。

 

さて、午後になり、トキの両親がチョコレートドーナツを持って来たので、トキは1階のカフェでトライしました。

 

トキは治療開始から約3週間ですが、甘味と酸味は、まだ、僅かに感じます。甘くないパサパサのドーナツと、コーヒーは香りが良く、酸味のある黒いお湯でしたが、トキは、それなりに満足でした。

 

さらに、この日の夕方、トキは最も会いたかった方に、デイルームで声を掛けられました。中咽頭がんで頸部リンパ節を郭清(右のみ)、抗がん剤&放射線という、かなりトキに近い治療を行ったという男性。

 

以前、トキがハリーさんとデイルームで話している内容を聞き、『自分と同じだ!』と思い、話し掛けてくれたのです。

 

その男性はトキよりも1つ下の43歳、若いです。

 

お住まいは大分のため、週末に奥様が来ているそうです。そして、まだ、小学生という子供さんには、

 

「この前、お父さん、頸の手術したやろ。そこをしっかり治す治療とかリハビリをするために、福岡の病院にしばらく入院するっち言ってます。勿論、がんとは言ってません・・・」とのことでした。

 

彼は既に治療を終えて数日が経過、もう数日もすれば退院をするそうです。

 

彼はトキの目指す約1か月半後の姿です。トキは、彼を憧れの眼差しで見ていました。

 

彼は、頸周りを擦りながら軽い口調で話しました。

 

「頸周りが日焼けして少しヒリヒリする程度で、どうもないんすよね!もともと外仕事やけん、日焼けには強いからっち言ったら、先生が『それは関係ない』って言われました。」

 

トキは最も気になっていることを、口の中で無理やり、かき集めた唾を飲み込んで聞きました。

 

「ご飯は食べれていますか?」

 

彼は少し間をおいて答えました。

 

「いや、もう殆ど味覚はないです・・・でも、いまだに、コンビニのカップラーメンとおにぎりは、結構、食べれるんで、それを。」

 

「えっ!そうなんですか?」

 

「いや、凄い変な味ですよ、でも、何すかね?食べなれとうけんすかね?」

 

「他に何か、結構、食べれるのってありますか?」

 

「結構、酸っぱいのは、わかるんで、病院のご飯にデザートでついてくる、オレンジを切ったやつとかは食べれてたんすけど、今は口の中が火傷したみたいになっとうけん、しみてから、もう食べれんとですよ。」

 

彼は苦笑いをしながら話しました。

 

苦笑いでも笑いは笑いです。トキは彼の話ぶりにある種の勇敢さを感じていました。

 

そして彼は最後に、こう言いました。

 

「タバコは、もう無理ですけど、1年経ったら酒は少ーしだけ飲んでみようと思うとですよ。」

 

トキは、あと数日で、オサラバする自分の個室に戻って行く彼の姿に自分を重ねました。

 

トキは、直ぐにコンビニに行きました。しかし、既に匂いさえダメになっている『お米』は、やっぱりすすみませんでしたが、

 

カップラーメンは新鮮さも手伝い、何となく少量ですが食べることが出来ました。

 

しかし、トキは食べ慣れた日清のカップヌードルにしなかったことを後悔しました。

 


 

『しまった!このカップラーメンを食べるのは初めてやけん。そもそもの味がわからん』