025:先生が僕ならどうしますか?

中咽頭がん 発覚編 025:先生が僕ならどうしますか?

 

2017年4月17日(月)

 

トキは、もう一つ、別のがんが見つかってから、親族、友人、仕事、山笠、バンド、それを伝えるべき人たちに、バタバタと会ってきました。トキには、テープで隠しているとはいえ、既に頸に大きな手術痕があり、声もしゃがれています。しかも2週間で戻ると言っていたのに、2か月の延長です。U先生の話の受け売りですが、トキは正直に、別のがんが見つかったことを話しました。皆のリアクションは殆ど同じでした。身内や知り合いに、がんを患った方がいる人は、その話を。いない人は聞いたところで、当然、返す言葉に困ります。

 

「言葉が見つからない・・・」確実に、どんよりするのですが、この空気を一転させる方法がありました。

 

トキは皆と一緒に、スマホで『動画』を撮ったのです。

 

「入院中に、その動画を見て、その場に自分がいたこと、『ここに戻るんだ』ということを実感し、頑張るために」と言って頼んだのです。

 

すると、どんよりから一転、皆、水を得た魚のように「大丈夫!頑張れ!」と笑顔で応えてくれたのです。

 


 

さらに、自宅や会社、近所の公園などの景色、車を運転するトモ、ピアノを弾くウタなどの動画も撮りました。動画は『ここに戻るんだ』と、トキ自身が視覚的に実感するためでもありましたが、結果として、相手にとっても良い形になったのではと、トキは感じていました。

 

さて、トキは、インターネットで調べて知りました。扁平上皮がんは『種類』です。体のあちこちで発生する可能性があります。最初に肺にできれば、肺がん。胃にできれば、胃がんです。それが進行すると、各リンパ節や他の臓器に転移してしまうのです。U先生は、この最初にできた臓器、つまり『原発』が中咽頭ではないかと推測していました。

 

2017年4月18日(火)

 

九州がんセンター外来。トキは一人で、タクシーで来ました。診察室に入るなり、U先生が言いました。

 

「やっぱり中咽頭ですね。この前、扁桃腺のところからとった組織から扁平上皮癌が見つかりましたので、もう、検査のための手術はやりません」。

 

この日は上部消化器管内視鏡検査が行われました。いわゆる胃カメラです。結果や治療計画などを含めて、また明後日ということになりました。U先生がバタバタと色んな準備をしてくれている様子に、

 

それは、つまり、良い状態ではないのだろうと、トキは感じていました。

 

さて、今回の良くも悪くもトントン拍子な感じの流れに、セカンドオピニオンという雰囲気は全くなかったのですが、せめてもと思い、トキは、九州がんセンターを紹介してくれた、総合病院その2の若先生を訪ねました。若先生は既に、がんセンターから、トキの状態について聞き知っていました。U先生と違い、相変わらず喜怒哀楽の大きい先生です。頭をかきながら自分の事のように悩み、独り言のように言いました。

 

「結構、再発の可能性もありますからねえ。もし、次に再発したら、喉を全部、とっちゃわないといけなくなるかもしれないからですねえ・・・」。

 

つまり、手術で摘出せずに、放射線メインの治療を受けることに対してです。そこで、トキは、こう聞きました。

 

「もし、先生が僕ならどうしますか?」

 

「うーん、僕なら・・・受けますね」

 

若先生は苦しい表情で、絞り出すように答えてくれました。この若先生も、U先生と同じく、トキと同じデザインのメガネをかけています。トキは、それだけで勝手に、この二人の先生に運命を感じていました。親族は「もっと色んな病院で、色んな先生の意見を聞いたほうがいい」とか「治療方法は選んだ方がいい」とか言いました。しかし、トキには、その気力も体力もなく、そして時間も無いように感じていました。そもそも、それが正しいかどうかなんてわかりません。ですから、トキは判断基準を決めていました。

 

『この二人の先生が言うなら、それでいい』 と。