022:心臓を掴まれる。

甲状腺がん 手術編 022:心臓を掴まれる。

 

2017年4月5日(水)

 

甲状腺を全摘出しても、生きてはいけますが、甲状腺が作り出す甲状腺ホルモンが全く無くなると、1か月くらいしか生きられません。

 

ですから、トキは甲状腺ホルモンを補う、チラーヂンSという薬を毎日、飲み続けなければなりません。一生です。 

 

甲状腺ホルモンが不足すると、甲状腺がんが復活する恐れがあるため欠かせないのです。これを術後TSH抑制療法と言います。

 

ある意味、一生、続けなければならない『治療』でもあるのです。

 

また、同時に副甲状腺も無くなったので、カルシウムの取り込みが不可能になりました。

 

カルシウムが不足すると手足のしびれが起こります。現在、この状態に陥っているトキは、補うためにカルシウムを点滴で入れています。さらにカルシウム剤とカルシウムの製造を補うビタミンD剤を飲んでいます。U先生曰く、 

 

「しびれがなくなり、血液検査の結果で、カルシウムの量が安定してくれば退院が出来ます」。 

 

体が慣れてくるのでしょうか?薬の量はゼロにはなりませんが、徐々に減らすことが出来るようになるそうです。さて、トキは今日も手首にある、点滴の針口を濡らさぬように、ビニール手袋で防水をして、シャワーを浴びます。シャワーを浴びる時は手術痕に貼ったテープを剥がします。トキは、その度に鏡を見て思います。

 

『グロイ』

 

この状態にU先生は、

「引っ張っても、傷口が開くことはないですから」 と、真面目な顔で冗談っぽく言います。この先、どのくらいで、どんな見た目になるのでしょうか? 

 


 

2017年4月6日(木)

 

遂に点滴が外せました。順調のようですが、相変わらず、唾を飲み込むのさえ、喉が痛い状態ですが、

 

トキは、お粥を卒業して、ご飯に挑戦しました。これでもかと、よく噛んで噛んで、頑張って食べきりました。トキは、この状態で世に出ても大丈夫なのか?と思いましたが、U先生の診断により、4日後の10日に退院、その4日後の14日に外来と決まりました。この日に『病理』の検査結果もわかるのです。

 

さて、午後になって、トキの幼馴染が見舞いに来てくれました。彼は今回のことを全て知っている貴重な一人でもあります。彼は先日、母親をがんで亡くしたばかりです。ですから、がんや死にまつわる諸々のことはわかっているのです。気を使いながらも、サバサバとした会話が、トキには心地良く感じました。本当に温かい親友です。今年1月のガンズ・アンド・ローゼス大阪公演をはじめ、共にヘビーメタル&ハードロックのファンとして何度も一緒にコンサートに行った仲です。これからも一緒に行かねばなりません。そして

 

この日の深夜、心臓を摑まれるような出来事がありました。

 

病院のスタッフが慌てて行き交うような足音と、泣き叫ぶ女性の声が廊下に響きました。

 

自分と重ねることを避けるように、両手で必死に耳をふさいだのは、トキだけではなかったことでしょう。