021:当たり前になるといい。

甲状腺がん 手術編 021:当たり前になるといい。

 

2017年4月4日(火)

 

抜糸を行うことになりました。

 

頸をぐるりと切り、中をごっそりとったのに、僅か6日で、諸々の傷が引っ付き、回復しているとは信じがたいものです。もし、普段の生活の中で、この傷を負ったなら、こうはいかないでしょう。そう考えると、治す前提で切った、手術とは魔術のようです。U先生が、プツプツと糸と切り、ピンセットでスルスルと抜いていきます。

 

因みに、体内に残った糸は溶けて、体内に取り込まれて無くなるそうです。

 

頸の皮を一度、剥がして、またその皮を引っ張って縫い合わせている。まさにそういう感覚がする。

 

この時点でのU先生の説明と、トキの感覚は一致していました。

 

午後になって、トモとウタが来ました。トキは、ウタの屈託のない笑顔に救われます。

 

 

トキはウタと一緒に1階のコンビニに行くために、エレベータに乗りました、入院してから、ずっと地上6階にいたトキにとっては新鮮でした。コンビニで手術痕に貼るテープを買いました。1巻400円もします、これを3か月間、毎日、貼り替えなければなりません。範囲が広いので、1巻が1週間程度しか持たないでしょう。大切に使わなくてはなりません。


 

そして、ウタは、プリッツを買い、コンビニの隣にあるカフェスペースに、ちょこんと座り、おいしそうに食べていました。なによりです。病名こそ言いませんが、トキは、自然に自分の状態や治療のことをウタに話しました。

 

ウタも「こうしたらいいっちゃない?」と屈託なく返しました。トキは、その会話の間、心の中では別の言葉でウタに話しかけていました。 

 

『お父さんとお母さんのところに、生まれて来てくれて、ありがとうね。

 

大きな手術痕がある、お父さんでも、薬を毎日、飲むお父さんでも、

 

それが、当たり前になるといい、本当にありがとうね』

 

ウタは親知らずを抜いた治療の『抜糸』を明日するそうです。トキに似て、アゴが小さいわりに歯がデカいので、並びが悪くなるのです。トキも随分と歯の矯正をしてきました。ウタも多少、必要になるかもしれませんが、成長と共に整っていくことでしょう。さらにトキは心の中でウタに話しかけました。

 

『きっと、もっともっと、美人になる。そして、人の気持ちがわかる、優しく強い人になりなさい』

 

お父さんは、その成長を見届けなければならない。

 

トモとウタが帰った後、トキは6階に戻り、廊下の窓から外を見下ろしました。そこには薄っすらと、桜の花が咲いていました。来年も、その先もずっと、トキは桜を見なければならないのです。ウタのためにも見なければならないのです。