甲状腺がん 手術編 018:「大したことないやん」
2017年3月31日(金)
手術から2日後、夕方にトモとウタが見舞いに来ました。トキは相変わらず管だらけの状態でしたが、少しでも病人っぽさを拭うために、病室から、デイルーム(広い談話室)に移動して、出来るだけ元気に明るく振舞いました。
ウタは、トキの病気のことも、手術のことも、入院のことも、何も知りません。
ですが、トキはトモから 「お父さんは、のどにできた、できものを取る手術をした」
と、ウタに軽く話したということは聞いていました。トキとトモは、ウタの反応に少し、ソワソワとしていました。一方、ウタは、ここに来る前に親知らずを抜いたらしく、右の頬が、ぷっくらと腫れていました。言葉も発せず、無表情でした。そんなウタの様子に、トキは思いました。
『突然に、こんなお父さんを見て、言葉もないだろう』。 ところが・・・
「思ったより傷がひどくない、大したことないやん」
突然のウタの言葉にトキとトモは驚きました。ウタの話によると、小学校時代からの男の子の友達に大手術をした子がいるらしく、プールの時に、その子の胸にある大きな大きな手術痕を見ていたのだと言います。どうやら、そのイメージがあったらしいのです。
ある意味、既に免疫力があったのです。
さらに、トモとウタの会話が続きました。
「がんセンターやけどね、色んな病気の人が入院しとうとよ」
「まぎらわしいね!」
トモが、さり気無く、病名は伝えていないことをトキに伝えました。ウタも気にしていないようですが、
中学2年生で『癌』と言う病気に対して、どんな知識とイメージを持っているのでしょうか?
いずれは、お父さんが『癌』と言う病気を患い、治療をしていることを知るでしょうが、それは今じゃなくていいのです。その後もウタはトキに色んな話をしてくれました。ウタは多少の思春期を感じさせるも、父親のトキと会話をしっかりとしてくれます。小柄なこともあり、まだまだ幼くも見えますが、本当は、どんな胸の内なのでしょうか?いずれにしても、
ウタは手術をした後のお父さんでも、手術をする前のお父さんと全く変わらぬ態度で接してくれました。
まるで、何事もなかったかのように。まるで、家のソファに座っているかのように。
トキは、そんなウタの様子に励まされて、心の中で強く叫びました。
『最強最高の娘に恵まれたのだ、グズグズするな!ウタのために普通に生きねば!』
中2のウタが大好きなハリー・ポッター。
楽しかったUSJに、トキは、もう一度、一緒に行かねば、絶対に行かねばならないのです。