ふたりの国王とアートラの魔力

 ~マキリのペンにまつわるお話~ 『ふたりの国王とアートラの魔力』

 

 38年もの間、争いの絶えることがなかった、ベイリー国とキーン国。その争いを終わらせるために、破壊エネルギーのアートラを遂に『武器』として使う戦いに両国は向かおうとしていました。周りの国々も、もはや、それを止めることは難しいと思っていました。  

 アートラは、もともと、ティアの地中なら、どこにでもあるウルトという鉱石です。ところが、ある一定の鉱水と、ある一定の熱を加えると、アートラという凄まじい破壊力を持つ液体状の、いわゆる爆弾に姿を変えるのです。アートラを作ることが出来る道具職人はいません。

 その作り方は、昔、よその星から来た者が伝えたとされ、ティアの中でも知る者は僅かしか、いませんでした。そのため、その知識を奪おうとする争いも古くから絶えることがありませんでした。

 アートラは、ティアの人々には使いこなすことが出来ないエネルギーであることも、ティアの星の全てを滅ぼす恐ろしい魔力を秘めていることも、ベイリー国の国王は知っていました。そこで、ベイリー国の国王は、キーン国の国王と話し合うことにしました。

「キーン国の国王よ、あなたが持っているアートラを全て手放してくれないだろうか?」

 キーン国の国王は、ニヤリと笑い、答えました。

「ふん、よかろう!しかし、条件がある!」

 キーン国が持っている全てのアートラを手放すかわりに出した条件、それは『ティアの全ての国も、それぞれが持っている全てのアートラを手放すこと』でした。

 それに対して、ベイリー国の国王は即答しました。

「もちろんだ」

 驚いたのは、周りの国々です。しかし、ティアの中でも大きな力を持つ、ベイリー国が持っている全てのアートラを手放すならと、周りの国々も皆、賛成したのです。

 こうして、ベイリー国の国王とキーン国の国王は争いを止めて、お互いに和平条約の書に堂々とサインをしたのです。

 ティアにあった全てのアートラは碧い銀河の(重り運び人)達によって、碧い銀河の外にある、ブラックホールに捨てられました。アートラは全てを破壊すると恐れられたエネルギーでしたが、奇しくも、そのアートラの魔力によって、ティアに平和な時間が長く長く、もたらされたのです。

 のちに、わかったことですが、この話し合いは、ベイリー国の国王とキーン国の国王が、ティアを守るために、ふたりで演じた芝居だったのです。つまり、ふたりは初めから、アートラを武器として使うつもりはなく、争いも長く続いていたため、そろそろ止めるつもりだったのです。そのことを知らなかった周りの国々は、すっかりと騙されたのでした。

 この芝居の台本を書いたペン、それこそが、この『マキリのペン』だったのです。ベイリー国の国王は、このマキリのペンを手にした日から3日間、飲むことも、食べることも、眠ることも、休むことも全くせずに、まるで何かにとりつかれたかのように、この芝居の台本を書き続けたと言われています。そして、ようやく完成した4日目の朝、ベイリー国の国王の顔は晴れやかで、一点の曇りもなかったそうです。ベイリー国の国王が、とてつもない『勇気』という力に充たされた瞬間でした。その『勇気』がキーン国の国王にも通じたのです。全ては、マキリが自ら、ペンという道具に込めた『魂』の力によるものではないかと言われています。
  

 

道具職人マキリの仕事