同じ病室のムタさん

同じ病室のムタさん

  

同じ病室に入院しているムタさんは83才のおじいさんです。ムタさんは僕と同じ、強い副作用のある治療を受けています。その治療を僕はムタさんより3週間ほど早く始めていました。だから、ムタさんは、自分の息子より若い僕のことを時々、「先輩」と呼びました。


ムタさんの唯一の楽しみは、ラジオです。それは視力も聴力もかなり衰えているため、テレビも新聞も、ままならないからです。僕も何度か病院の書類を大きな声で読んであげました。毎朝、病院の庭を一緒に散歩して、ベンチに座り、色んなことを話しました。

 

 

ムタさんは7年前に奥さんをこの病院で看取って以来、一軒家で一人暮らしをしているそうです。毎日、今日一日、何をするかを考えるのが日課だそうです。そんなムタさんから今日、こう言われました。

 

「なあ、先輩、今日が最後やね。あんたが友達になってくれて良かった。ありがとうね、でも、もう、ここでは二度と会わんようにしようね。僕は、もう、この歳やけど、あんたは、まだ若いけん生きないかん、生きないかんよ。」


僕は泣きそうでした、ムタさんも泣きそうでした。

 

明日、ボクは退院します。ここは、がんの治療をしている人だけが入院している病室だから、ここではムタさんに二度と会いたくない。でも、明日からムタさんが、どんな日々を過ごすのか気になります。それを知る術はありませんが、ここでムタさんと出会い、過ごした時を一生、忘れることはないでしょう。

 

ムタさん、歳には勝てません、でも、病気には勝ちましょう。「生きないかん」あなたがくれた、その言葉を胸に少なくとも僕は、あなたと同じ83歳まで生きてみせます。

 

2017年7月9日 HaratoRocks