入院中、魔女に出会った。

入院中、魔女に出会った。

 

僕が入院していた病院には、見た目は僕と同じ40代くらいの看護助手の女性がいました。ケラケラと甲高く笑い、大声で、しゃべるため看護スタッフの中でも浮いていたし、引いている患者もいたようです。ある日、廊下で僕も話しかけられました。「どこも悪そうにないのに、どこが悪いんですか?」って。確かに看護助手なので詳しいことは知らないはずです。しかし、あまりにも、ぶしつけなので、ビックリしましたが、手術をしたこと、治療をしていること、強い副作用に耐えていることなど、丁寧に説明すると、一言「治ります!」と言って、マスクの上から覗く目だけで、まるで魔女の様に、ニヤリと笑いました。


数日後、再び、廊下で会った時には「いつ退院するんですか?」と突然、聞かれたので「まだ暫くは・・・」と返すと、「私が、おる時に入院しとって良かったねえ、アハハハ。」と、またもや、マスクの上から覗く目だけで魔女の様に、ニヤリと笑いました。なんか面白くなって、それからは廊下で会う度に話すことはありませんが、お互い、ニコリと挨拶を交わすようになりました。


それから約1ヶ月半、退院前日に魔女が突然、僕の病室に現れました。「明日、退院されると聞いて、お手紙を書いてきました。」マスクを外した魔女は鼻筋が、すーっと通った綺麗な人でした。そして、僕に手紙を渡すと「お元気で、またどこかで。」と小さな声で言って、目だけではなく、顔全体で、ニコリとしながら去っていきました。手紙と言っても何かの空き箱の切り抜きに、ボールペンで走り書きしたものでした。しかし、その字は美しく、しかも、びっしりと書かれていました。手紙は、こう始まります。

 

『名前が理解らないので、、様へ、いつも明るいごあいさつと笑顔をありがとうございました・・・』

 

実は魔女も抗がん剤の経験者でした。

 

魔女は自分らしさを表現しようと思うけど、ここでは笑顔が禁物のため、よく怒られているそうです。だから、現在、産婦人科の病院に転職するために助産師を目指して勉強しているそうです。そして、最後に『生きて、生き抜いてください!ありがとう!』と手紙は結んでありました。

 

ふと、大学時代にパチンコ屋でアルバイトをしていた頃を思い出します。先輩からよく言われました。「客と仲良くなるなよ、金が絡むと人は変わるからな。」と。ある意味、ここもそうです。命が絡んでいるから魔女に「笑うな。」と言った人もいるでしょう。でも、僕は笑ってくれた魔女に随分と生かされました。だから、僕も出来るだけ笑おうと思います。家族のために笑って、大切な人達のために笑って、そして、自分のために笑って、笑って生き抜こうと思います。
 

2017年7月9日 HaratoRocks