僕等の会議

僕等の会議

 

朝6時30分。

 

「お早うございます。今日の担当です、宜しくお願いします。今日は誕生日ですね、おめでとうございます。抗がん剤が届いていますよ。」と看護師さんが満面の笑みを見せました。流れで話されたせいか、それが、まるで誕生日プレゼントのように聞こえ、苦笑いをしてみせました。そう、今日は僕の四十五歳の誕生日なのです。記念に看護師さんに写真を撮ってもらいました。抗がん剤と言っても単なる点滴です、痛くも痒くもありません。後にくる副作用は苦痛の極みですが、まだ、この時点では、満面の笑みでガッツポーズが出来ます。
 

 

同日12時、昼食の配膳のおばさんに「お誕生日おめでとうございます。」と言われ、メッセージカードと紅茶パック1袋と雨玉を3つをもらいました。残念ながら今の僕には香りのいい茶色い水と舐めたら溶ける石ころでしかありません。今日の抗がん剤治療で、微かに残る味覚さえも失ってしまうことでしょう。

 

 

 

同日14時、点滴をうちながら、エレベーターに乗って放射線の治療を受けに行きました。土日は病院の都合で休むのに、お客は誕生日すら休ませてくれません。

 

今は大量に水を飲んで、おしっこを出すのも仕事です。利尿剤の効果もあって2時間に一度はトイレに行きたくなります。これが少なくとも3日間は続きます。というわけで寝不足になります。

 

今日は、フェイスブックを通して誕生祝いのメッセージが沢山、届きます。しかし、吐き気、倦怠感、食欲不振、微熱、しゃっくり、便秘、脱毛、そして味覚ゼロ・・・猛烈な副作用の波と闘いながら、ただ「いいね」を押すことしかできません。

 

この状況に・・・「今晩は泣いてもいいんじゃないか?」と誰かが言い出しました。

 

そこで、久し振りに『僕等の会議』を開くことになりました。冒頭、僕ナンバー003が、こう発言しました。「そもそも、誰かにウケようと、こんな文章を書いている時点で、大したことじゃないと思っている証じゃないか?」この意見に満場一致で、あっという間に閉会となりました。その結果、僕は泣かないことになりました。そう、大したことではないからです。

  

2017年5月29日 HaratoRocks